放射熱を感じる
10月に「コーヒーカップよりもステンレスカップの方が冷めにくい(らしい)」という話を書きました。(「熱しやすく冷めやすい」)
そちらの追試もしなくてはいけないのだけど、最近は「放射率の違い」を肌で感じる仕組みに凝っています。(「放射熱」よりも「輻射(ふくしゃ)熱」という言葉の方がなじみのある人もいると思います。漢字制限で変わったのか今は「放射」の方をよく見かけます。「輻」の字はたしか「車のスポーク」にあたるもののことだから、まわりじゅうに放たれている感じがでています。英語のradiationもradius(直径)と同系だろうから同じような話)
熱の伝わり方のうちで「伝導」と「対流」と比べると「放射(輻射)」は、いかにもわかりにくいと感じていたのですか、考えてみれば太陽からの熱がそうやって来ているわけで、もうちょっとわかってもいいなと思った次第です。
アルミダイキャストの箱の面を、
1.そのまま
2.アルミ箔を貼る
3.塗料で黒く塗る
4.フェルトを貼る
という処理をしたものです。
この中に熱湯を注いで、それぞれの面の近くがどうなるかを調べようというものです。
フェルトはともかく他の面の温度はほぼ同じになると考えられるので、何か違いがあるとすれば、表面の性質によるだろうということ。
答えを先に言ってしまうと、黒く塗った面とフェルトを貼った面に「手」を近づけると2センチくらいの距離から「暖かさ」を感じるのに対して、アルミそのままやアルミ箔の面はギリギリまで近づけないと暖かさを感じません。これは「アルミの方が放射率が低いから」と言ってしまえばそれだけのことなのですが、結構ビックリしました。
放射温度計を使う時にこの「放射率」が問題になります。金属は放射率が低いのでそのまま測ると正しい値がでません。〈金属そのものの温度を測りたい〉という目的からすると、単に「測定上の注意」ということなのですが、「放射率が低い」ということの本質は何かといえば「熱を放出しにくい」ということでしょう。つまり同じ温度の容器であっても金属面の部分からはあまり熱が出てこない。(だから「冷めにくい」という話が前に書いた日記です)
人に見せる実験としては「手で感じる」のがベストかもしれませんが、大勢の人に見せるためには、「黒い面の前に持っていくとパッと動く」ようなメーターとかランプが欲しいところです。デジタル温度計のプローブを置いても反応が鈍くてダメ。コーンを付けたり、プローブの先に何か付けたりしてもダメでした。中村理科工業の店長さんに「熱電対をそのまま使ったらどうか」と助言をいただきました。 実は、この実験は1860年頃にジョン・チンダルがRoyal Instituteで見せたものをマネしているのですが、その時の「熱検知器」がThermo electric pileと呼ばれるもので、まさに熱電対なのでした。 工作も電気も苦手な私としては、熱電対使ったセンサーを作ることもままならず、まだ何か楽な方法がないか探索中です。
さて、箱の4つの面を「放射温度計」で測ってみるとどうなるでしょう。ちゃんと記録していなかったのですが、
1.そのまま・・・・・・・35度
2.アルミ箔を貼る・・・28度
3.塗料で黒く塗る・・・71度
4.フェルトを貼る・・・・・68度
という感じになりました。(あくまでも「ざっと」です)
「1」の面はアルミダイキャストをピカールで磨いたのですが、アルミ箔よりも放射率は高い(反射率が低い)ようですが、ともあれ「金属」と「それ以外」の差は大きく出ました。「面の温度」そのものは、ほぼ同じはずなので、測定結果だけを見ると「放射温度計ではうまく測れない」ということになってしまうのですが、これは測定の問題とうよりも、「面の近くの点が受ける熱線の量」と考えれば、まさにそのままの値が出ているのですから、「アルミの近くは暖くないが、塗料の面の近くは暖かい」ということを示しているともいえます。
その意味で放射温度計は「放射熱の違いを示す道具」として最適なのかもしれませんが、いかんせん「直感的」とはいいがたいので、チンダル先生のような「原始的計測器」が欲しくなるのでした。
“Heat considered as A Mode of Motion:
being A COURSE OF TWELVE LECTURES
delivered at THE ROYAL INSTITUTION OF GREAT BRITAIN
IN THE SEASON OF 1862”
by John Tyndall
December 23, 2004 at 02:42 PM in 科学 | Permalink
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Comments
う~ん、放射率が高くて熱伝導が高い材質の板かなんかを箱の面に対向させて、裏の温度を測れば何とか放射温度計で測れませんかねぇ。薄目の黒鉛板かなんかがあれば何とか測れるかも知れませんよ。ちなみに材質と放射率のデータ表のURLを紹介しておきます。(まぁ、のぶさんはだいたいはご存じかと思いますが)
http://global.horiba.com/analy/it/subete8.htm
http://www.ureruzo.com/ondo_ritu.htm
それとも、熱伝導の良い金属板(銅とかアルミかな、銀は高いですしね)の両面に黒鉛のスプレー吹きかけるって手もありますね。
グラファイトスプレー http://www.fcj.co.jp/products/mold.html
Posted by: 温泉カワセミ | Dec 23, 2004 10:32:56 PM
これはあちらのコミュニティにもエントリーすべき内容ですね。
さて、面の温度は同じでありながら、放熱(でいいのかな)の体感は違うわけですよね。えー、全然理解できてない疑問かもしれませんが、中の液体の温度というのはその面近くで変わるもんなんでしょうか。
つーか、中の液体の温度の下がり方ってどうなんだろ?
上面とかが一番放熱しそうに思えるけど、じつは熱伝導のスピード的に考えると差がないまま全体に冷えるというんでしょうか。
なんて考え方はもともとなかったりして。
Posted by: gomi | Dec 23, 2004 10:49:27 PM
ああ、なんか僕のコメントがレベルを下げてる気が(^_^;)
Posted by: gomi | Dec 23, 2004 10:50:50 PM
アルミ生地のままと黒色では、そんなに違いますか!?
アルミ建材の耐火試験をやる時、放射温度計による表面温度の測定で、放射率をいくつに設定するか悩むところです。
アルマイトが掛かっているので、素地と言うことはありませんが、生地色だったり、ブロンズだったり、黒だったり…。それにガラスとの組合わせになるし、最近は室内側が樹脂や木質だったりするので、放射率を一律に決められず、悩んでおります。
Posted by: みゃお | Dec 23, 2004 11:15:09 PM
gomi さま、
えぇ~っと、この実験の場合は熱が逃げていく経路で最も影響が大きいのは、確かに解放している上面での蒸発潜熱だと思われます。ただし、今回は容器は同じ形状ですので、各条件においてコレに差が出てくるとは考えにくいと思います。
これ以外に熱が逃げていく経路としては上面での空気との接触、および壁面の熱伝導が考えられます。また容器から外部に熱が逃げていくときには「空気との接触」と「赤外線による輻射」が考えられます。今回の場合、容器の材質も厚みも同じと考えられますが、表面状態を変えて熱輻射の量だけを変化させたってぇのが、今回ののぶさんの実験です。だから放射率の小さい表面からは熱が逃げにくいので、時間が経過すると温度差が出て来るでしょうね。
また容器の中の水温は、時間が経過すれば、ある程度は差が出ることが推測されます。容器内の水温も当然一定ではなく、外界で冷却される上面と壁面近傍では有意に低く中心部が高いと思いますが、冷却により対流が発生して攪拌される関係上、実際の温度分布はもっと複雑じゃないかなぁと想像するのですが・・・
みゃお さま、
金属の放射率に対する表面状態の影響はバカになりません。下記のHPの表2にもあります様に、アルミでも粗面とホイルで数倍の開きがありますし、鋳鉄なんか研磨面と黒皮面で一桁違てますからねぇ。木材でも水分含有量なんかでかなり変化しそうやしなぁ。状況が許せば放射率が既知のコーティングしてやるのが一番確かなんですがねぇ。いつもいつもソレが出来るかって言うと難しそうですね。
http://www.tri.pref.osaka.jp/kankou/news/No71/TRI-SERIES.html
Posted by: 温泉カワセミ | Dec 23, 2004 11:41:49 PM
>温泉カワセミ様
コメントありがとうございます。理解が進みました。
水温に関して、起きていることが複雑であるというのは別として、中で差があるんじゃないかということには単純に想像したとおり(だろう)ってのがわかって楽になりました(^_^)
Posted by: gomi | Dec 24, 2004 12:21:59 AM
わお、こんなにコメントが、ありがとうございました。
>温泉カワセミさん
いつもありがとうございます。
なるほど、熱伝導のいいもので受けておいて、うしろから放射温度計で測るというのはいいかも。やってみよう。
>gomiさん
実験した時にはフタ(これもアルミダイキャスト)をしてやりましたので、上面からの放熱は小さかったと思います。中は撹拌してやればベストでしょう。
>みゃおさん
20~30度くらいだとアルミでもそんなにヘンな値はでないのですが、熱いものを測ると上記のように大きく差がつきます。実は常温だと逆にアルミの方が大きく出ることがあって、おかしいなぁと思ったら、どうやら他からの赤外線を金属面が反射して、それも混ざってしまったようです。同じアルミならアルミでも表面の状態によって放射率は変わるので、結局のところ「温度がわからなければ放射率は決められない」ということになってしまうようです。
今回、つい「黒く」塗ってしまったのですが、実は「透明のニス」でも同じような結果になると想像しています。フェルトも黒でなくて白でもよかったし、ただの紙を貼りつけてもいいはず。
ところでフェルトを使ったのは「いかにも保温が良くなりそう」だからです。ティーポットに布のカバーをかぶせるものがありますが、あれは、ゆったりとできていてポットとの間に空気が入るからいいのですね。(カバー自体にも空気が含まれているだろうし)
ステンレスとアルミでも放射率は違うのですが、そんなことを知らずにそれを体感していた人の話を聞きました。アルミのやかんは熱くなっていても、手を近づけても気付かなくてやけどをしやすいというのです。それがステンレスのやかんだとそんなことはなかった、と。これはまだ実験していませんが興味があります。
Posted by: のぶ | Dec 24, 2004 12:40:56 AM
> 温泉カワセミさま、のぶさま
ありがとうございます。
それほど精度を要求するものではないのですが、アルミの表面温度が融点近くになるまで加熱するので、いつも気になっています。
加熱するに従って、アルマイト色が変化し、その後溶融し始めるので、放射率を一律に決めること自体無理があるんでしょうが…。
Posted by: みゃお | Dec 24, 2004 10:33:31 AM
みゃお さま、
表面にしっかりとアルマイト加工され、それなりの厚さでアルミナが形成されていれば放射率は安定しているかと思われますが、その上に着色をしていると、難しいですねぇ。特にブロンズ色とかのものはニッケルをさらに被覆しているとか聞いたことがありますので、放射温度計では難しいでしょうね。
ただ上の方で紹介したグラファイトスプレーなら400℃までは使えるようですし、黒鉛が燃え出すには600℃くらいはいると思いますから、うまくするとアルミの融点ギリギリまで使えるかも知れませんね。少なくともデータの校正用には使えるんと違いますかねぇ。
Posted by: 温泉カワセミ | Dec 24, 2004 1:41:10 PM
温泉カワセミさん、アドバイスありがとうございます!
先ほど、Avioのソフトで、サーモグラフィによる測定値の解析をやって見ましたが、600℃付近のデータで放射率を変えると、とんでもなく大きな差が出てしまいました。
一度、アルミ素地と、各種電解着色やグラファイトスプレーなどで、検証してみる必要があるようです。
Posted by: みゃお | Dec 26, 2004 2:55:20 PM
淡路島から帰ってきました。
現地で何人かの人に「放射熱の違い」を見せてきましたが、興味を持ってくれる人、くれない人半々でちょっと拍子抜け。
しかし「アルミカップ」の方がふつうのコーヒーカップより「冷めにくい」のいう話は、誰もが「へぇー」でした。
Posted by: のぶ | Dec 27, 2004 11:00:45 AM