『人はなぜお金で失敗するのか』
【原著】
"Why Smart People Make Big Money Mistakes"
by Gary Belsky and Thomas Gillovich 1999
著者のひとりであるギロヴィッチは、『人間この信じやすきもの』("How We Know What Isn't So")という本を書いている。
この本は、認知科学、認知心理学ではかなり知られた本であり、「ニセ科学批判」を志す?人にとっても必携の書ともいえる。1999年頃、認知科学の講議を三宅なほみさん(中京大学)から受けた時にこの本の一部が教材に使われていて、それがきっかけで認知科学に興味をもったようなもの。そしてskepticへと繋がった。
あまりに気に入ったので「他にGillovichの本はないのか」と当時探してみつけたのが、ここで紹介する『人はなぜお金で失敗するのか』である。翻訳はでていなくて、認知科学関係の人に「この本いいですよ、訳しませんか」と話したことを覚えている。
前置きが長くてすみません。この本を読むために上記の話は一切必要ありません。
心理学者のギロヴィッチと資産運用担当ライラーのベルスキーが組んで書いたこの本は、タイトルの通り「お金のことでいかに多くの人が失敗するか」を書いたものである。そして、その理由の根源は、
・自信過剰
・思い込み
であるという。
「心の会計」という言葉が使われている。
経済学者に言わせれば、「ルーレットで儲けた1万円」も「給料の1万円」も、「税の還付金の1万円」もみな同じ「1万円の価値」を持つ、と考えられている。ギャンブルで儲けた金であろうと、給料であろうと、自分の全財産への影響を合理的に計算すれば、使い方に変わりはないはずである。 しかし、ふつうの人間はそうはいかなくて「道でひろった1万円」は、「給料の1万円」よりも、よく考えもせずに使ってしまう。このように、本来「同じ価値」のはずのお金に「違った意味」を持たせることを「心の会計」と呼んでいる。ふだんの食料品の買い物の費用には十分気をつけている人が、電化製品や家を買う時には、かなり大ざっぱになるのも「心の会計」の一例。
「心の会計」がいつでも悪い、ということではないが、そのために誤った判断をする恐れが多い、ということをいろいろな例で示してくれる。
1.あなたは10万円をもらった上で、次の2つの選択肢を与えられた。
A・・・さらに5万円もらえる。
B・・・コインを投げて、表が出ればさらに10万円、
裏が出ればそれ以上は何ももらえない。
2.今度は、20万円をもらった上で、次の2つの選択肢を与えられた。
A・・・5万円をとりあげられてしまう
B・・・コインを投げて、表が出れば10万円を取りあげられしまう、
裏が出れば、何も取りあげられない。
実験結果によれば、多くの人は「1」ではA(確実な5万円の利益)を選び、「2」では、B(10万円損するか、全く損しないかの5分5分のギャンブル)を選ぶそうである。(たぶん、ぼくもそうだろう)
「もらえる」ものは確実に。「失うもの」は、少しでも減らすチャンスに賭ける、というわけである。
しかし、みんなが避けた「2-A」は、実は「1-A」と全く同じ結果になるのである。どちらも「確実に15万円が手元に残る」のだから。一方、Bは、1でも2でも「うまくいけば20万円、そうでなければ10万円残る」という点で全く同じである。
この問題は、「どちらが正しい」というものではないけれども、この例を見るだけども人の考えることが結構いい加減であることがわかるのではないだろうか。
あなたはA社とB社の株を、どちらも1000円で買ったとする。3ヶ月後、A社の株は1500円に値上がりし、B社の株は500円まで下がってしまった。このあと、両社の株価がどうなるかは、予想はつかない。さて、あなたはどうするか?
こんな時、A社の株を売って500円の儲けを確定しようとする人は多いが、B社を売って「500円の損」を確定しようとする人は少ない。 A社株を持ち続けて、もし下がってしまうと、現在の「500円の儲け」が減ってしまう。一方、B社は、今売れば「確実に500円の損」だが、持ち続けていればいいことがあるかもしれない、と思ってしまう。
「値上がりしている株を早く売りする」ことと「値下がりしている株を持ちすぎる」ことは、どちらも非常に多い失敗だそうだ。「損失を確定させたくない」(「損失の嫌悪」という)気持ちからである。
6年前にこの本を読んだ時に特に印象に残ったことが2つ。
ひとつは「三つの扉」問題。
あなたの前に三つの扉がある。そのうちひとつの扉の向こう側には豪華賞品(クルマ?)が、残りのふたつにはタワシが入っている。
まずあなたは、ある扉(A)を選びました。ここで司会者が残った扉のひとつ(B)を開いて見せると、そこにはタワシが入っていました。そして、こういうのです、
「あなたは、今選んでいる扉(A)から、残ったひとつの扉(C)に変更することができます。変更しますか?」
さあ、あなたはどうするでしょう。
この問題は大いに気に入って、あちこちで紹介した。その後、いろんな本でも見ることがあったのだけれども、最初に見たのがこの本であった。
もうひとつが「インデックスファンド」。当時も今も株には興味ないけれども、インデックスファンドだけは理解した。「株式市場全体が右肩上がりである」ことだけに期待した株の買い方といえばいいだろうか。個々の銘柄の上がり下がりを予測するのとは全く違うものと感じた。その後も「ファンドマネージャーなんていい加減なもの」という話を読むたびに、インデックスファンドのことを思い出す。
例のごとく、書評は苦手でうまく伝えられた自信がないので、他にこの本のことを書いた人のページをいくつか紹介しておきます。失礼ながら、URLだけ。
http://pitecan.com/bib/Belsky_MoneyMistakes.html
http://plaza.rakuten.co.jp/kajitta/diary/200504150002/
http://iii.moo.jp/review/r2/money_mistakes.shtml
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