凝結熱のチカラ
手のひらに向けて、口をつぼめて息を「フーッ」と吹くと「冷たく」感じて、口を開いて「ハーッ」と吐くと「暖かく」感じますよね。何故でしょうか。「息」の温度は同じはずなのに。
「フーッ」と吹いた時には、表面の体温で暖められた空気の層がどかされて、まわりから冷たい空気が流れ込む、またその結果体表面から水分が蒸発して気化熱のために冷たく感じる(実際に冷たい)のに対して「ハーッ」だと、ゆっくりと息がかかるために、そういうことは起きずに、暖かい(体温と同じくらい)空気がかかるので暖かい、ということだと考えられます。
ここで、あらためてご自分の手のひらに「ハーッ」と息を吐きかけてみてください。暖かいですよね。
し か し、 「暖かすぎる」とは思いませんか?
手のひらの温度は人によっても周囲の温度によっても違いますが、暖かい部屋の中では32~34℃くらい。ここに体温(36℃くらい)の空気がかかるだけでそんなに暖かく感じるものでしょうか。
ぼくの仮説は「息に含まれる水蒸気が水になる時に凝結熱」のために暖かいというものです。
水が蒸発して水蒸気に変わる時に「気化熱」を吸収して(「奪う」というと板倉聖宣さん「疑人化するな」に叱られる:-)冷たくなることは、ご存じでしょう。その逆に、水蒸気が水に変わる時には「熱を出す」のですが、こちらはほとんど体感する機会がありません。
メガネに「ハーッ」とやってくもらせたり、寒い日に息が白くなるのを見れば、息の中に水蒸気が多く含まれていることがわかります。息をかけた手のひらは、くもりはしませんが触ってみるとしっとりと湿っていることがわかると思います。(すぐに乾いてしまいますが)
水蒸気から水に変わったからには何がしかの「凝結熱」が発生したには違いありませんが、果してその熱の量がどのくらいなのかはわかりません。
暖かいのが息の温度のためだけではなく、凝結熱のせいであるかどうかを調べるには、息と同じ温℃の「乾いた空気」をかけて実験してみればよいのですが、これが難物です。
ヘアードライヤーの風をビニール袋に入れてから、袋から空気を送り出そうとするのですが、熱風を入れたはずが、次の瞬間には室温とあまり変わらなくなってしまうのです。うーむ、保温が必要か。
しかし、ふと気付いたのは〈空気というものは、かようにすぐに冷めてしまうものなのか〉ということ。つまり熱容量が小さい。一息吐いた36℃の空気なんぞで手のひらを暖められるわけがないのでは、という思いがますますつのります。
計算によってもある程度凝結熱の大きさを見積もることはできるのではないかと、やってみました。
・36℃における飽和水蒸気量は41.7g/m^3 → 41.7mg /リットル
・33℃における飽和水蒸気量は35.7g/m^3 → 35.7mg /リットル
この差の分だけ凝結(結露)するとすれば 6mg/リットル。
1息で1リットル吐いたとして、そのうちの水蒸気の半分(根拠なし)が水になったとすれば、3mg。
30℃付近での水の気化熱を600cal/gとすると、3mgなら1.8cal。
一方36℃の空気1リットルが33℃に冷える時に発する熱量はどのくらいか。
空気の比熱を 0.17 cal /K g 、空気の重さ 1.3 g/lとすると
0.17*1.3= 0.22 cal/K l
3℃冷えると、約0.66 cal.
一応凝結熱の方が大きいけれども、こんなラフな計算だけでは何ともいえません。
これはこれで実験と計算を継続する予定なのですが、別の実験をやってみました。
タオル(ハンカチでも)を口にピッタリとあてて息を吹きかけたことはありますか? マスクをかけて息を吐いた時でも同様ですが「暖かく」もしくは「熱く」感じませんか。 何回か続けて吹いたところで素早く温度を(非接触温度計で)測ると40℃にもなることがありました。手で触ってみても、しばらく暖かさが残っています。36℃の空気を吹きかけただけでこんなに暖かくなるとは考えられません。タオルはじっとりと湿ります。
「元の息の温度よりも高い温度になることがある」ということは、凝結熱のためである可能性が大きいと思えませんか。
ちなみに、最近一部で宣伝されている「発熱素材」というものは、この
凝結熱を利用しています。
ふだん実感することのない「凝結熱」が、こんなに身近で感じることができるということがわかりました。放射熱に続いて、「陽の当たらない熱」への挑戦がまた始まります。
追記(06-02-27)
なにげなく「凝結熱」という言葉を使いましたが「凝縮熱」の方が一般的かもしれません。(Googleでの検索結果数でも)
「凝縮」は日常でも「うまみを凝縮」などと使うのでなじみがありますが、意味はちょっと違いますね。(「濃縮」の意味で使うこと多し) その点「凝結」は、他の意味で使うことはないので専門用語らしくていいかもしれません。でも言いにくいんだよね「ぎょうけつねつ」って。
追記その2(2006-02-27)
「(凝結熱 OR 凝縮熱) 息」で検索してみたところ、
「素朴な疑問集」のページ
http://homepage1.nifty.com/tadahiko/GIMON/QA/QA054.HTML
というところに、
息を吸って、吹くときのことなのですが……。
「ふ~」と吹くのと、「はぁっ~」と吹くのとでは、「はぁっ~」と吹く方が暖かい。いったいなぜですか?
という、そのものズバリの質問があり、おふたりから回答が寄せられていました。
「はーっ」が暖かい理由がいくつか挙げられており、「凝縮熱」も要素のひとつとして書かれていました。(2000年の書き込みです)
「理科メーリングリスト」(現在は別のMLになっていて、旧ログは見ることができません)で議論になったとのことで、「凝縮熱」に関しては、回答者の「うにうにさん」は
《結論の一致を見ませんでしたが、私はあまり大きな要因ではないだろうと考えています。》
と答えています。
ぼくはこれを「大きな要因」だろうと考えているわけですが、上記の回答では他の要因について詳しく書かれており、ぼくが簡単に「凝縮熱のせいだろう」と決めつけるのは早計かもしれません。
ともあれ「ハーッ」の暖さに関して凝結熱を考えている人がいたことはわかりました。(当然か…)
February 25, 2006 at 05:30 PM in 科学 | Permalink
Comments
「・・蒸発によって大気中に吸い上げられた水はすぐに凝結し、雨や雪となってふたたび地球上に戻ってくる。どんな場合でも、大気中には総量の 10 万分の l である約 1 万 2900立方キロメートル程度の水分しか存在することはできないのである。もしそれが全部雨となって降ったとすれば、地球の全表面を約 25 ミリメートルの水で、おおうことになってしまうだろう。
水の循環は、ときとして近道を選ぶことがある。海から蒸発した水の多くは、すぐスコールとして海に戻る。また陸上でも、降るとすぐに、一部は空気中に蒸発する。しかし空気中の水の総量はつねに不変である。水蒸気が増加すると、その分は雨、雪、あるいは雹となってかならず地上に戻ってくる。空気中にとどまっている水は、蒸発する分子にたくわえられた潜在エネルギーを現わしている。そのエネルギーが増大してくると、水の循環は、嵐となってこのエ ネルギーを放出する。特別に大きな雷雨だと、 110 キロトンの核兵器以上のエネルギーを放出する。そして、地球上には毎日 1 万以上の雷雨が発生しているわけである。・・(「水のすべて」 ライフ/人間と科学シリーズより引用)」の中で、「・・空気中にとどまっている水は、蒸発する分子にたくわえられた潜在エネルギーを現わしている。・・」の一つの現象形態が凝結熱のチカラなんでしょうね。
Posted by: 田吾作 | Feb 25, 2006 6:24:04 PM
「叱られ」でココログルしてきました。
面白いっ!
た・だ・し。凝結熱だ、というのであれば、まず、凝結していることを証明しないといけないのでは?あなたの仮説が正しいとすると、「息が白くならないとその息の周りが暖まらない」ことになるのでは?…あっ、「息が手に当たったときの凝結熱」ですか。それならあるかも。
た・だ・し、再び。
体内温度は、40度近いのでは?肺の中から気道を通ってくる間に、36度以上にはなるんじゃ?もちろん、証明できませんが。
もひとつ、40度くらいのお湯で、全身が「暖かく感じる」ってこととの関連はどうなるでしょうか?…おっと、今日家に帰ったら、脇の下とか肛門も温かく感じてるかどうか調査しないと…ははは。
でも面白いですね、いろいろ考えること。僕もいろいろ考えます。こっちほど、具体的な数値やデータは使いませんけどね、はは。
Posted by: ぽくぽく | Feb 26, 2006 1:42:02 AM
> 田吾作さん
水の循環では凝結熱が重要ですね。今回いGoogleした時も、凝結の話はほとんどが気象に関する話題の中でした。(「ハーッ」に関する話題はありませんでした。)
>ぽくぽくさん
「叱られ」でこちらに来られたとは面白い。書いておいてよった。
体内の温度、どうやったら測れますかねぇ。たしかに体温よりも暖かい部分があるかもしれませんね。36度を保つためにはもっと高い温度のものが必要でしょうから。
ちょっと測ったところでは口の中は36度よりも低いようでしたが、「息」は、口の中からだけではありませんものね。
引き続き調べます。
Posted by: のぶ | Feb 26, 2006 8:39:02 PM