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2011.04.01

放射能の少ない水

大学院生だった頃、「放射能の少ない水」を汲みに行ったことがあります。

研究室の先生は放射体化学が専門で、炭素14による年代測定で有名でした。その測定の際に木材などに含まれる炭素を取り出して最終的にはアセチレン(C2H2)にします。ここに含まれる「H(水素)」には一定の割合でトリチウム(T)という水素の放射性同位元素が含まれています。ごく微量なうえ放射線量も少ないので通常は気にしませんが、ごく微量のC14の放射線を測る場合には邪魔になります。水(H2O)の中の水素にも同じようにトリチウムが含まれています。

というわけで「トリチウムを含まない水」というものが必要になります。どこにあるかといえば、深い地下水など長い間宇宙線に曝されていない水が「トリチウムフリー」な水だそうです。

何年かに一度汲みに行くのでどこにそういう水(井戸)があるかわかっていて、たしか横浜あたりの工場に行きました。レンタカー屋で2トントラックを借りて、なぜか大型免許を持っていたぼくが運転しました(2トン車はもちろん普通免許でOK)。

行った場所は工場敷地内のプールのようなところで、大きな消火栓のような取水栓からその貴重な水があふれんばかりに出てきます。結構な時間をかけてポリタンク100個ほどに詰め無事持ち帰りました。

ちなみにその工場は別に「トリチウムフリーの水」が使いたくて使っているわけではありません。たまたまそういう地下水を使っていただけです。でも、ちょっと面白い(と当時ぼくが思った)ことがありました。

上に書いたように、そもそもその水を汲むのはトリチウムを含まないアセチレンを作るためです。

アセチレンランプをご存じの方はわかるかもしれませんが、「カーバイド」に水をかけるとアセチレンが発生します。普通カーバイドというのはカルシウムカーバイド(Ca2C2)ですが、研究室で使うのはリチウムカーバイド(Li2C2)を使います。これに水をかけると、やはりアセチレンができます。

このリチウムカーバイドにかける水として「トリチウムフリー」の水を使うと、「トリチウムを含まないアセチレン」が出来あがります。これが最終目的物です。

ところで汲みに行った工場ではいろいろな気体(たぶん二酸化炭素とか窒素とか)を作っていて、アセチレンも作っていました。工場でアセチレンを作る時はカルシウムカーバイドに水をかけます。その水はそこにふんだんにある「トリチウムフリーの水」です。だから、この工場で作られるアセチレンは「トリチウムフリー」なのです。もちろん、このアセチレン製品にとって何の意味もありませんが、研究室で苦労して作る「トリチウムフリーのアセチレン」が毎日大量にあたり前に作られていると思うと、楽しくなりました。

ちなみに研究室で使うアセチレンの「C」の部分が肝心の測定対象の炭素なので、いくらトリチウムフリーでも、工場で作られたアセチレンを使うわけにはいきません。

このところ強い放射能の話ばかりを読んでいて、ふと思い出したので30年ほど前のことを書いてみました。その工場で作られるアセチレンが「トリチウムフリー」というのが、ぼくはすごく面白いと思ったのですが、実は当時もまるでウケませんでした。放射体化学の研究室だったのに。だから、ここでウケることはもちろん期待していません。ただ、忘れないうちに書いておきたかっただけです。

April 1, 2011 at 03:50 PM in 日記・コラム・つぶやき |

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